上田一雄さんが41年間の会社員生活を終えたあと、漠然とした不安の中で始めたのが生活支援員という活動でした。そこで見えてきたのは、誰かに手を貸すことはいつか自分にも巡ってくるというつながりの手応えです。
真っ白な毎日から踏み出した一歩
「会社員時代は自宅と職場を往復する日々で、地域に知り合いがほとんどいなかった」と話すのは、生活支援員として活動する上田一雄さん。
退職後の生活を考えると、真っ白な毎日に不安が押し寄せてきたという。
「会議もない、電話もメールも来ない世界で、人との関係をどう築いていけばいいのか。長年暮らしていても、地域に生活の基盤が何もなくて、ただただ不安でした」
そんな中、雇用条件が変わって少し時間ができたことを機に、退職後の生活を本格的に考えるようになった。
ちょうどそのころ、広報紙『まごころ』で目にしたのが、生活支援員の募集案内だった。
「自分の住む地域で、自分を含めたみんなが安心して暮らせる環境をつくりたい。誰かの困りごとを知り、お手伝いをしてみることが、まずは一歩になるんじゃないか」
そう思い、応募に踏み切ったという。
会社員時代の最後の3年間は、出版社からの問い合わせに対応するヘルプデスク業務を担当。「困りごとに応えるという今の仕事の原点は、ここにあったのかもしれない」と語る
「地域福祉権利擁護事業」の生活支援員
上田さんが担う生活支援員は、国立市社会福祉協議会が実施する「地域福祉権利擁護事業」の仕事だ。
認知症や知的・精神しょうがいなどで判断力に不安のある方を対象に、その人らしい生活が送れるよう、本人の自己決定を支援する取り組みである。
具体的な支援内容は大きく3つ。
一つめは、福祉サービスの利用援助。「こんなサービスを使いたい」という相談や、利用手続きのお手伝いをする。
二つめは、年金や税金、公共料金の支払いなど、日常的な金銭管理。一緒に銀行に行ったり、代わりに出向く場合もある。
三つめが、年金証書や通帳、権利証といった書類の預かり。貴金属や骨董品以外の大切な書類などを銀行の貸金庫に保管する。
利用者のもとを訪れ、日常の支払いに充てるための金銭管理の手続きと、郵便局へ代わりに出向く様子
相談を受けて支援計画をつくるのは高齢・しょうがい分野の知識を有する専門員。その計画をもとに、利用者のもとへ足を運び、現場での支援を担うのが生活支援員の役割になる。
利用を希望する本人からの相談はもちろん、家族やお知り合いの方からの相談も受け付けている。
支援後は必ず専門員への報告も丁寧に行う
現場に立って気づいたこと
不安を抱えた中で生活支援員に応募してから、現在3年目。
「利用者様との関わりの中で、こんな自分でもお役に立てることがあるんだと、率直にうれしく感じています」と上田さん。
現場に立つと、利用者の困りごとは、いつかの自分の姿に重なって見えるという。
福祉制度への理解を深めながら、一人ひとり違う困りごとに寄り添う中で、いざというときの備えやサポートのかたちを知ることができた。誰かの安心が、自分の安心にもつながる。そう感じるようになったという。
自転車で支援先に向かう
自身も家族の認知症を経験している。家族だからこそ見えてしまう「変化」がある一方で、他人だからこそ、出会った瞬間のその人をそのまま受け止められる。そう気づいたという。
認知症でも、安心して地域で過ごせるように。
頼ることをネガティブに捉えずに、家族だからできること、誰かに助けてもらうことでうまくいくことを、それぞれのケースに合わせて考える。そんな選択肢が、もっと身近なものになっていくよう、上田さんは願っている。
生活支援員以外の顔も
上田さんは生活支援員と並行して、国立市フレイルサポーターとして、「フレイルチェック会」に参加している。
フレイルとは、年を重ね、心身の活力が低下した状態のこと。健康寿命を伸ばすためにも、予防に取り組むことが重要とされている。
また、マス目の網(ネット)を踏まないように、ゆっくり慎重に歩く運動プログラム「ふまねっと」のインストラクターとして、市内で運動教室を主催している。
目指すのは、いつまでも自分の足で歩けること。認知機能の維持のためにも、頭と体を使うことが大事だという。
「生活支援員の仕事には、できることとできないことの線引きがあります。仕事として責任を持ってやる一方で、ボランティアの活動では、より自由に地域の人と関わることができます。地域のみなさんと健康に生きていくために、一緒に考えながら活動していきたいと思っています」
地域を知ると景色が変わる
人生の先輩たちの生活を支える活動を通じて、20年後にも安心して楽しく暮らしていける地域を、自分もつくっていける。そんな実感を、上田さんは持つようになった。
そして、決して支えるだけではない。生き生きと活動する先輩たちの姿に勇気をもらうことも多いという。
「会社員時代とは、見える景色が違う」
そう話す上田さんが思い描くのは、お年寄りが元気なこのまちの姿だ。いつか自分自身が誰かの手を借りる側になったときも、そこにあるつながりが、きっと自分を支えてくれる。そう信じられるようになった。

地域福祉権利擁護事業
地域福祉権利擁護事業のサービスの利用を検討される場合は、お電話や窓口にてご相談ください。
ご本人からの相談はもちろん、ご家族、お知り合いのかたのご相談も受け付けています。
お問合せ先・窓口:権利擁護センター 権利擁護係
電話:042-575-3222
FAX:042-575-3554

ふまねっと@くにたち
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