土間には駄菓子、小上がりには畳。本を読んだり、遊んだり、思い思いに過ごす日もあれば、似顔絵屋さんや演奏会と、いつもと違う楽しみがはじまる日も。ここは、子どもも大人も寄り道したくなるみんなのおばあちゃん家です。
冒頭写真:左から森久保 康男さん、出口 貴久奈さん、井龍 あい子さん、日下 文世さん(以下、文世さん)、日下 竹彦さん(以下、竹彦さん)
「おかえり」も「ひさしぶり」も
習い事帰りの子どもたちが、いつもの時間に息を切らして入ってくると、小上がりに腰掛ける文世さんが「おかえり」と声をかける。
「髪切った?」「ちょっと前にね」久しぶりの顔とも、昨日の続きのような空気が伝わってくる。
駄菓子屋の店主は文世さん。竹彦さんは小上がりの奥で作業をしていることもある
駄菓子を手におしゃべりする子、夢中になってピアノを弾く子。作業をする大人や、通りがけに一言声をかけていく人たちの姿もある。
「これから出かけてくるよ」と引き戸を開けたのは、ご近所のやっちゃんこと森久保 康男さん。
季節行事を手伝ってくれたり、昔の話をしてくれたり、「ネオおじいちゃん」として親しまれている。
森久保 康男さんは地口絵といわれる、提灯絵の先生でもある
こうした日常が生まれたのは、2020年のこと。しばらく空き家だった畳店を再生し、「谷保のネオおばあちゃん家」として生まれ変わった。
竹彦さんは、こう話す。
「子どもの頃に過ごしたおばあちゃんの家は、編み物教室をする隣で、子どもがゲームをしたり、おじいさんたちが飲み会をはじめたり、自由で居心地の良い場所でした。そんな自由と勝手さが、そこにいる人の力をのびのびと出せる空気をつくっていたのだと思います。そういう拠点をつくりたかったんです」
はじめから大きな構想があったわけではないという。
「地域の人が自由に行き来できる場があればいいなくらいで、とくにこだわりはありませんでした」
地域のコミュニティに顔を出しながら、少しずつ仲間を増やし、はじめてここで開いたイベントは落語会。畳の空間に人が集まり、笑い声が広がる。その光景を見て、「あ、ここはいろんなことが起きていい場所なんだ」と感じたという。
その後、定期的に駄菓子屋をはじめると、子どもたちも立ち寄る場になり、特別な目的がなくても、人が行き来する場所になっていった。
小銭を数えて「くじもできそう」「カードの交換しよう」と会話がはずむ子どもたち
出会いから広がる
「科学あそび教室がやりたいんです…」
元小学校教諭の井龍 あい子さんの言葉に、「じゃあ一緒にやってみよう」と意気投合し、2021年から「りんごのほっぺ科学あそび教室」がはじまった。
谷保のネオおばあちゃん家以外でも科学を楽しむ企画を開催し、国立市を中心に活動を広げる井龍さん
身近な道具や自然を使った科学あそびは、暮らしの中の気づけばちょっと楽しい発見を大切にするもの。子どもたちの好奇心をくすぐり、定期的な教室へと育っていった。
この場所での出会いから、似顔絵屋さんや演奏会、季節のイベントやワークショップなど、さまざまな人の「やってみたい」が形になってきた。
その積み重ねのなかで、“集まる場”だけでなく、“過ごす場”としてもゆっくりと根づいている。
「誰かの『やってみたい』を聞き逃さないようにしたい」と竹彦さん
日々の関係から生まれたフリースクール
現在、週3回開催しているフリースクールも、最初から計画していたものではない。
科学あそび教室をきっかけに、もっとここで過ごせる時間をつくりたいという思いが生まれた。関わる人のあいだに生まれた思いが重なり合い、またひとつ「やってみよう」が動き出したのだ。
出口 貴久奈さんもフリースクールを担当。出口さんは子育てをしながら、服飾の技術を生かした制作活動にも取り組んでいる
やると決まってからは事業を続けるために法人化し、運営に関わる仲間も少しずつ増えていった。それは大きな計画があったというより、目の前の関係を大切にしてきた延長にあったものだ。
ネオおばあちゃん家では、いつも関わりが先にあって、形はあとから生まれている。
ルールよりも、話し合いを大切に
ネオおばあちゃん家のフリースクールには、過ごし方の細かなルールはない。
「何かあったときに『どうしたら、もっと過ごしやすくなるかな』って、その場で一緒に考えたいんです。その都度話し合いながら、今の自分たちに合うかたちをつくっていく。そうするには、お互いを尊重することが欠かせません。そんな空気が、少しずつ育ってきているように感じます」
取材の日に出会った、公認心理師の実習生もこんな話をしてくれた。
「ここで出会った子たちは、子どもらしいなと感じました。いろいろな場所で子どもと関わってきましたが、ここでは最初から無理に打ち解けようとする様子がなく、その子なりの距離感でいられる空気があるように思いました」
フリースクールも駄菓子屋さんも、ここではお店の人とお客さん、つくる側と参加する側、といった線引きはあまり意識されていない。
「同じ立ち位置で、協力関係でいたいと思っています」と竹彦さんは言う。枠のない安心感が、ネオおばあちゃん家の土台となっている。
暮らしの中にある場所
学校では見えにくい子どもの姿が、地域の中ではふっと見えることがある。困りごとを、身近な関係の中で支え合えることもある。そのためには、普段からつながれる場所が必要だと、竹彦さんは感じてきた。
「生活圏にあることが大事だと思っています。コンビニや八百屋さんのように、日々の暮らしの中に自然と組み込まれている場所。その延長線上で、ふと誰かと顔を合わせたり、言葉を交わせたりする。そんな関わりしろを、これからも模索していきたいです」
今日も土間には誰かがいて、小上がりには笑い声がある。気ままな時間が、谷保のネオおばあちゃん家をつくっている。

谷保のネオおばあちゃん家
【場所】国立市富士見台1丁目47−2
活動の詳細はHP、駄菓子屋さんのスケジュールはインスタグラムをご覧ください。
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