特集シリーズ「今日も元気で」 2026年5月1日 vol.24

見えなくても、聞こえなくても、同じ映画を 〜くにたちバリアフリー映画上映会〜

2006年、夜間学級を描いたドキュメンタリー映画「こんばんは」の上映会から始まり、今年で20年。音声ガイドや字幕を取り入れ、みんなで同じ映画を味わう時間を大切に活動を続けています。

[冒頭写真:左から宮本 千佳さん、金野 繁子さん、金井 かず子さん(以下 金井さん)、佐伯 房恵さん、池野 栄子さん、油井 真知子さん、館 貴美子さん]

バリアフリー上映とは?

いろんな人が映画を楽しめるように、バリアフリー字幕や音声ガイド等を利用できる上映のことです。バリアフリー字幕では、セリフの他にも話者や音楽、また重要な音の情報を字幕によって伝えます。また音声ガイドは、場面の様子を音声で伝えてくれます。
※「くにたちバリアフリー映画上映会」では日本語字幕・音声ガイドがついている映画を上映しています。

新聞記事をきっかけにはじまった活動

音訳ボランティアとして活動していた金井さんが、ある日の新聞で目にしたのは、東京都墨田区の夜間学級に密着したドキュメンタリー映画「こんばんは」が副音声と字幕付きで上映されるという記事だった。

「国立でもできるのでは」と思い立ち、音訳・点訳・手話のボランティアに関わる仲間に声をかけ、「くにたちバリアフリー映画上映会実行委員会」を立ち上げた。

「上映権料がかかることも知らず、本当に手探りでした」と金井さんは振り返る。

上映権料が10万円かかると知り、ガレージセールや募金活動で資金を集めるところからスタートとなった。

金井さんが所属する「くにたち音訳グループ」ではしょうがいや高齢などの理由で読書が困難な人向けに、資料を音声化する活動をしている

20年前は映画館でも音声ガイド付き上映はほとんどなく、国立でこの取り組みをはじめたことは、まさに先駆けだった。

「みんなで映画を楽しむ時間を当たり前にしたい」という想いのもと、実行委員のみなさんも、それぞれの専門知識を活かして準備を進めた。

視覚しょうがいの方が迷わないよう、駅の出口それぞれに案内役が立った。聴覚しょうがいの方が字幕を見やすいよう専用席を設け、上映後の壇上トークには手話通訳も配置した。

床全体がフラットな会場のため、車椅子の方には、観やすく出入りもしやすい前方のドア付近をご案内した。

「マイクを通した音はスピーカーから聞こえるため、視覚しょうがいの方には話し手がどこにいるかがつかみにくい」という視覚しょうがいの方からのアドバイスで、挨拶の最初の発声はマイクを使わず肉声で行った。

「来てくださる方が安心して楽しめるように」と、できるかぎりのバリアフリーを実行し、第1回の上映会が実現した。

現場でナレーションをつけるライブ音声ガイドで上映した様子

みんなで映画を楽しむために

バリアフリー映画とは、音声ガイドや字幕を加えることで、視覚や聴覚にしょうがいがある方も一緒に楽しめるようにした映画のことだ。

音声ガイドでは、映像の中の動きや表情、場面の変化を言葉で説明する。セリフや間合いなど映画の世界観を壊さないよう配慮してつくられている。

目が見えない、または見えにくい方にも映画を楽しんでほしい。しかし上映したい作品に音声ガイドがついていないこともある。

そこで実行委員会は、オリジナルの音声ガイド台本を自分たちで作ることにした。これまでに手がけた作品は、20本にもなる。

台本づくりは、まず映画を何度も見ながらセリフや場面をすべて書き起こすところから始まる。

担当の場面を割り当てながら、どこにどんな言葉を入れるかはメンバー全員で検討する。

「最初に作った台本がバツだらけになるくらい、何度も書き直して作り上げていきます」

「1分のシーンに何時間もかかることもあります。言葉一つひとつにこだわって、メンバーみんなで真剣に選んでいます」と金井さんは話す。

時にはあえて「言わない」判断をすることもあるという。音楽が流れる中で映像が展開する場面や、間で語ろうとしている場面には、ガイドを入れない方が伝わることもある。

「説明しすぎると映画の雰囲気が崩れてしまうこともあります。でも何も言わないとわからない。そのさじ加減が難しくて、何度もメンバーと議論します」

これまで上映した作品にはそれぞれ思い入れがある

字幕がない作品には、ソフトを一から習得して字幕を自作したこともある。

字幕を追加することについて、配給会社への許可取得も一筋縄ではいかず、過去の上映実績などを提示しながら粘り強く交渉を続け、上映会にこぎつけた。

ボランティアへの想い

メンバーはみな、映画上映会以前からボランティア活動を続けてきた人たちだ。

金井さんが音訳を始めたのは、図書館から発行されていた「図書だより」に載っていた音訳者養成講座の案内がきっかけだった。

その時はじめて「音訳者」という言葉を知ったという。

当時は自宅で介護をしていたが、「家でもできることかもしれない」と応募した。それから30年以上、介護の傍らで続けてきた活動が、今の上映会へとつながっている。

音訳者養成講座の先生が厳しく指導してくれたおかげで今があると話す金井さん

メンバーそれぞれにも、活動を始めたきっかけがある。

ろう学校の生徒が手話で楽しそうに会話する姿が忘れられず、ボランティアへの道を歩み始めた方。
 
「本が好きなので、もし自分が本が読めなくなったらつまらないだろうなと思って音訳に興味を持ったんです」と話す方。

ライフステージによって一度離れたけれど、上映会をきっかけに活動に戻ってきたという方も。

点訳、手話、音訳と、それぞれ違う入口から始まったボランティアが、「一緒に映画を楽しめる場をつくる」という想いで、20年以上つながっている。

20年目、そしてこれから

今年6月に予定している上映会では、第1回と同じ映画「こんばんは」をふたたび上映する。

上映後には、当時16歳で映画に出演していた元生徒の秋元伸一さんが、20年の時を経て登壇する予定だ。

不登校で言葉を発することがほとんどできなかった少年が、どんな大人になったのか。見終わったばかりの映画の記憶が新しいまま、話を聞ける機会となる。

「今できないことがあっても、年を重ねることで人は変わっていける。私たちも最初は手探りだったけれど、気づいたらこんなにたくさんのことをやってきました。音声ガイド付きの映画は増えていますが、上映ができる場所はまだ多くはないです。せっかく始めた上映会を絶やさないよう続けていきたいです」と金井さんは語る。

選択の幅が広がってきたからこそ、丁寧な作品選びを大切に。有名作品にこだわらず、いいと思ったものを選んでいる

昨年の上映会では、開場前から順番待ちの列ができたという。

アンケートには「気づかなかった場面を補ってもらえて理解が深まった」という声や、「自分ではたどり着けなかった映画を観ることができた」という声が寄せられた。

「誰にとっても、映画を楽しむ機会が開かれていてほしい。楽しみにしてくれる人のために届けていきたい」という想いが20年間の活動を支えている。

見えなくても、聞こえなくても、同じ映画を。一緒に観るからこそ感じられる体験を、ぜひ次の上映会で。

バリアフリー上映会

【日時】2026年6月28日(日曜日)
開場:12時30分
上映:13時5分~14時35分
【場所】くにたち福祉会館4階 大ホール
【上映作品】映画「こんばんは」(2003年・92分)
音声ガイド・字幕付き上映
【定員】100名 
【申し込み】申し込みは不要です。直接会場にお越しください。
【主催】バリアフリー映画上映会実行委員会
【協力】くにたち市聴覚障害者協会、手話サークル連絡会、くにたち点字の会、くにたち音訳グループ、国立市社会福祉協議会
【問合せ】総務企画係 042-575-3226

一緒に映画をバリアフリーで楽しみたい——現状は?

バリアフリー上映に対応した映画は少しずつ増えてきています。大手映画館でも、専用アプリを使ってイヤホンから音声ガイドを聴いたり、スマートフォンやスマートグラスにバリアフリー字幕を映したりすることで、一緒に映画を楽しめる環境が広がってきました。メジャー作品にも対応するものが増え、スマートグラスの貸出を行う映画館も出てきています。

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